- はじめに
- 銀行の経営統合・連携(アライアンス)の見直し
- 店舗戦略・営業時間の見直し
- 持続可能なビジネスモデル構築に向けた取組み① 事業性評価融資(地域密着型金融)
- 持続可能なビジネスモデル構築に向けた取組み② 融資へのフィンテック・AIの活用
- 持続可能なビジネスモデル構築に向けた取組み③ 融資以外の収益の増加
- おわりに
はじめに
前記のとおり、持続可能なビジネスモデル構築にあたっては、取締役会がガバナンスを発揮していくことが必要であるが、現在の厳しい経営環境のもと、銀行の持続可能なビジネスの遂行および健全性確保にあたっては、統合や店舗戦略の見直しが課題となる。
これまでも人員・店舗の削減、子会社の最適化による経営の効率化を推進してきた銀行も多いが、個々の取組では限界もある。預かり資産が10兆円規模の地方銀行上位のグループではOHR(経費÷業務粗利益で算出される比率)が60%の基準を下回るところが多く、銀行の規模と経営効率には強い相関関係があり、経営統合をすることにより、経営戦略をさらに明確化し、収益性向上も図ることが想定される。
銀行の経営統合・連携(アライアンス)の見直し
①銀行間の経営統合・連携
現在主流の再編(経営統合)方式は、まずは共同持株会社の傘下に複数の地方銀行が併存する形であり、県境を越えるケースも多いが、より経営効率を向上させるには、間接部門やシステムの統合が求められるし、傘下の銀行の合併まで踏み込み、より経営の一体性・意思決定の迅速性を図ることも想定される。
なお、長崎県地盤の親和銀行を傘下に有するふくおかフィナンシャルグループと十八銀行の経営統合について、公正取引委員会の審査が長引いていたが、債権移管を条件に承認された。その後、政府は独占禁止法の審査に例外規定を導入し、地方銀行の統合基準を見直すと報道されている。
また、経営統合に至らない銀行同士の連携等も想定される。銀行同士の連携は、従前、基幹システムの共同運営や資産運用会社の共同出資による設立等が中心であったが、規制業種である銀行には共通業務が多く、業務の効率化や限られたリソースの有効活用のため、他業種より共同化のメリットが大きく、系列外での銀行間の提携の契機ともなりうる。
具体的には、マネーローンダリングについての外部委託、AIを活用した審査モデル構築や資産運用におけるロボアドバイザー導入、フィンテック情報技術の共同研究など、地方銀行が提携するケースがみられる。
②フィンテック業者との連携等
フィンテックの進展に伴い、IT企業など幅広い企業が金融事業に参入してきており、金融機関にとっては「脅威」でもあるが、自行の顧客向けにIT技術を駆使した先進的サービスを提供することは、他行との差別化にも資する。
地方銀行においても専門部署を立ち上げるほか、コストや時間の関係から、自前主義にこだわらず、「攻めの投資」として、フィンテック業者との出資やオープンな業務提携等が進展している。
なお、改正銀行法16条の4第1項により、銀行がフィンテック業者の議決権を取得・保有する場面が拡大しているが、銀行および子会社の業務範囲との関係等について検討が必要となる。
店舗戦略・営業時間の見直し
銀行の店舗は従前、顧客との接点という重要な役割を果たしたが、ネットバンキングの浸透や人口減少によりで来店者数が減少し、また店舗維持のコストから、「店舗偏重」からの脱却や店舗の多様化が進んでいる。
すなわち、従前のような一律のフルバンキング店舗のみでなく、業務運営の効率化や顧客の多様なニーズへの対応のため、専門店舗、空中店舗、移動店舗の充実などが図られている。その他、ITを駆使した接客を行う「デジタル店舗」への移行を打ち出す銀行(みずほ銀行)や、「次世代型店舗」として、印鑑レスやペーパーレスを推進し、RPAの導入などとあわせて事務効率化によるコスト削減を図る銀行(京葉銀行)などもある。
単なる事務処理であれば、スマートフォンやコンビニのATMで代替可能な側面もあり、メガバンクではATMを共通化する動きもある。
他方で、高齢者や富裕層にはコンサルティング、資産運用や保障性保険商品の説明といった付加価値を重視したコンサルティングプラザや提案・相談型ラウンジで対応するなどの差別化も想定される。また、複数の地方銀行が東京都心に共同で店舗を構え、情報の連携、運営の効率化とインフラとしての店舗維持を図る動きも進展している。
なお、金融機関の付随業務に関し、所有不動産の賃貸について規模の過大性等に関する要件があったが、平成29年9月28日に「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(以下「中小監督指針」という。)が一部改正され、地域のニーズや実情等を踏まえ公共的な役割を有する主体からの要請に伴い賃貸等を行う場合は、規模の過大性の要件については要請内容等を踏まえて判断しても差し支えないとの規制緩和がなされた。
これによって、顧客の利便性を低下させる店舗閉鎖まで行わなくても、余剰となった店舗の一部について保育所等に賃貸することにより収入が得られるし、店舗の一部をカフェ等にすることにより、地域のイベントや交流会の開催等による顧客との接点拡大による新たな顧客開拓や地域の活性化にもつながることとなる。
また、従前、銀行の営業時間規制があったが、平成28年9月23日、銀行法施行規則の改正により、営業時間を地域の実情に応じて変更できることとなった。過疎化で利用者が減少する地域において、少ない行員数でも、昼休みを導入するなど、営業時間見直しによる店舗維持もしやすくなり、移動店舗も組み合わせるなどし、店舗空白地でのシニア層に対する資産運用サービスなども維持できる。
持続可能なビジネスモデル構築に向けた取組み① 事業性評価融資(地域密着型金融)
一口に地方銀行といっても、当然ながら一律のビジネスモデルや「特効薬」があるものではなく、規模・特性、地域、取引先の業種などにより異なる。デジタルネイティブ世代の存在感の増大や顧客本位原則により、「顧客が金融機関を選別」する時代となっており、「攻め」の経営戦略に基づく他行との差別化や創意工夫が必要と解される。
①地域密着型金融の取組み
銀行の収益の柱である貸出については、前記のような構造的問題があり、持続可能なビジネスモデルとして、事業性評価融資が一つの方策となる。
金融庁は従前より、地域金融機関は担保・保証に依存する融資姿勢を改め、取引先の事業内容や成長可能性を適切に評価し、融資や本業支援等を通じて、地方創生に後見していくことが期待されるとし(「平成27事務年度 金融行政方針」)、事業性評価融資を推進してきた。
金融機関がこのような取組を通じて適切に金融仲介機能を発揮することにより、顧客との共通価値が創造され、地域経済圏における安定した顧客・収益基盤、利益に還流するというサイクルの確立(「好循環のビジネスモデル」)につながるところである。
このように、銀行は単に資金供給者としての財務支援(ファイナンス)の役割にとどまらず、ネットワークや情報を駆使し、本業・経営支援(アドバイス)へと役割を拡大する必要がある。
②現状の課題と対応
このような地域密着型金融は、地方銀行のビジネスモデルとしての強みであるが、以下のような課題があることもあり、取組姿勢には金融機関ごとに格差がある。
(1)事業性評価の技能伝承と人事評価
事業性評価融資については、融資先との双方向の対話による経営課題の把握が必要となるが、融資先は抱えている問題も複雑であり、きめ細やかな対応が必要となる。
行員において取引先の事業内容や業界について十分な知識を有しているとは限らず、また事業性評価・審査のノウハウも必ずしも十分でないが、これは担保・保証に依存した定型的融資姿勢、ひいては貸出量拡大のビジネスモデルに逆行するリスクがあるため、技能の伝承が求められる。
事業性評価は融資先を中長期的にサポートするものであり、「減点主義」よりも「加点主義」の人事評価に親和性が高く、これをインセンティブとすることも想定される。
(2)ビジネスモデルの差別化・融資の多様化
事業性評価融資については、与信コストもかかり、銀行のマンパワーにかんがみて、対応し得る融資先は一部であり、また短期的に大きな収益向上に寄与するものではなく、中長期的な取組・サポートの必要性がある。
なお、事業性評価と関連する本業支援・コンサルティングにおいては、「新しい販売先」(ビジネスマッチング)、「不動産の取得および借入」、外部専門家の紹介、新しい資金調達方法(ABL、クラウドファンディング)の紹介など、顧客の中長期的な収益改善につながる施策がある。
顧客の中には、「低金利融資と担保のみの関係で金融機関と付き合って大丈夫か」と考える融資先は多く、顧客へのコンサルティングや本業支援を通じて信頼関係が深まることにより、「顧客から選ばれる銀行」となりうるところであり、顧客の資金需要喚起による貸出金増加や、リスクに応じた金利設定による貸出金の利ザヤ改善の好循環も期待されるし、顧客の格付け(企業評価)向上にもつながる。
フィンテック企業が融資に参入する中、中小企業向け融資は競争の激化も予想されるが、地方銀行には顧客とのリレーションシップや地域社会とのつながりという強みがあり、コンサルティング機能や本業支援については、フィンテック企業に対して銀行にアドバンテージが存在し、ビジネスモデルの差別化を図ることもできる。
また、上記の強みを活かし、地域創生や成長可能性を重視した融資の取組も想定される。たとえば、地域性等に応じた独自の分野として、伊予銀行のシップファイナンス(船舶金融)や八千代銀行の医療・福祉向け融資、宮崎銀行の太陽光発電事業を中心とした再生可能エネルギー関連事業への融資などがある。また、牛など畜産分野を担保として融資する動産担保融資(ABL)も、地域資源を活用した成長分野への融資となる。
(3)ESG情報等非財務情報の活用
非財務情報の活用である。事業性評価の方法としては、3C分析、SWOT分析、ビジネスモデル分析、ローカルベンチマークなどが近年定着しているが、経済における価値の源泉が知的資産(経営理念、人的資源、ネットワークなどを含む)へと移行する中で、ESG情報を含めた非財務情報の活用は事業性評価にあたって一層重要性を増している。
金融検査マニュアルを踏まえた金融検査を前提とし、財務情報を活用した格付けと審査が行われてきたが、これは債権査定および融資判断の同質化、ひいては格付けの高い企業への融資競争を招いた側面があり、さらには融資スキルの向上の阻害となったとの評価もある。
銀行がESG情報を含めた非財務情報の開示を受け、これに基づき融資先の経営課題を把握し、対話(エンゲージメント)をすることが想定される。また、融資先もグローバルなサプライチェーンに組み込まれ、ESGへの取組を含めた経営課題の解決が求められるケースが増えているところ、顧客に銀行側の事業性評価を開示(フィードバック)し、経営課題のソリューションを支援することも想定される。
(4)本部と営業店の連携
事業性評価は、単に事業性評価シートを作成するといった形式的な事務作業ではなく、課題解決策および背景となる分析結果の取引先との共有、ITの活用による顧客情報やニーズの本部・営業店での共有などが必要となり、本部が営業店を積極的に支援・サポートする重要な役割を担う。
持続可能なビジネスモデル構築に向けた取組み② 融資へのフィンテック・AIの活用
① 銀行業務とフィンテック・AI
銀行業務は、膨大なデータを用いた正確な作業が求められるものが多く、AI、フィンテックやRPAとの親和性が高い。融資審査に関しては、大量のデータから統計的分析により、貸倒等の確率や最適な貸出額・金利を高精度で判断することができ(スコアリング・レンディング)、特に大量・迅速な審査が求められる個人や中小零細企業向け融資との親和性が高い(これに対し、大企業については融資額が大きく、財務情報のみならず、ビジネスモデル、製品・サービスの業務品質、ガバナンス、人材基盤、経営者の信用性など判断材料も多様であり、AIの有効性が現状では限定的である)。
銀行が会計サービスを提供するフィンテック企業と提携し、日々の売上・会計情報を収集し、融資先の財務データのみではなく、これまで入手が困難であったリアルタイムの取引データを活用するトランザクション・レンディングの動きがある。
中小企業については、四半期ごとの会計監査がなされる上場企業と異なり、年に1度の決算書作成となり、また必ずしも財務情報の信用性が十分でないといわれるが、これは恣意的操作のできない数値に基づく精度の高い審査を可能とするものである。そのため、財務内容から融資が困難であった先にも、保証や不動産担保がなくても融資(ABLや債権譲渡担保融資等)がしやすくなる。
これと関連し、銀行口座における預金の出入金状況や公共料金の支払状況等の定性的な信用情報につき、AIを用いて審査に活用し、迅速な小口融資を行う取組があるが、これもキャッシュフロー等をリアルタイムで把握し、返済可能額や融資額を判断するものであり、口座情報は銀行に蓄積されているため、データ入力等の事務負担も軽減できる。
② 融資業務におけるAIの活用の「攻め」と「守り」
融資におけるAIの活用は、顧客の利便性向上、貸倒率の低減や属人性排除、オペレーショナル・リスクの低減、人件費抑制といった「守り」の側面がある。
他方で、審査能力や正確性の向上により、従来融資を受けられなかった層に対しても、リスクに見合った適正な金利による貸付を可能とするものである。もちろん、信用リスクが高い層への融資金額の増額にも限度があるが、融資の底上げが期待される(日本型金融排除の克服による「金融包摂」)。
また、AIの活用により、融資先の経営状態をリアルタイムかつ適切に把握しやすくなり、融資先の事業性評価や本業支援にも資する。また、AI活用(事務効率化)によって余剰となったマンパワーやリソースを、AIでは代替できない事業性評価融資や顧客との対話・接点の時間増大といった「目利き力」が求められ、付加価値の高いリレーションシップ・バンキングの分野に振り分けることができるし、働き方改革にも資するものである。
さらに、従前、地方銀行は、小口融資の審査ノウハウやマーケティングスキルの補完のため、メガバンク傘下の消費者金融や信販会社を保証会社として利用していたことから、収益が限定されていたが、内製化できるのであれば収益向上につながるところであり、このような「攻め」の部分もあると解する。
なお、AIの活用により、これまで金融機関の競争力の源泉であった資本集約型の生産要素に比べて、ビッグデータの収集や分析が重要となるし、与信判断の情報も多様化が進み、利用者情報(パーソナルデータ)の蓄積や利活用などの重要性が高まっていくことが想定される。発展途上国では、信用情報が整備されていないが、スマートフォンの普及率が高く、電話料金等から顧客の消費傾向等を分析し、迅速な融資判断を可能としている。
今後も、SNS上に現れる活動、学生向けのローンでは大学・学部名、研究活動実績など、多様な情報の活用が検討課題となる。
また、AIは「ブラックボックス化」により事後的な検証を困難とし、格差や偏見を助長するおそれがあり、判断根拠の透明性確保と説明責任(「XAI=説明可能なAI」)を果たせるかが今後の課題となる。
持続可能なビジネスモデル構築に向けた取組み③ 融資以外の収益の増加
① 収益の多様化(手数料収入等)
前記のとおり、銀行においては貸出業務が収益の中心であるが、融資以外の収益を増加させることも想定される。すなわち、投資信託や保険の窓販のほか、高付加価値のフィナンシャルアドバイザリー、M&A、事業承継対策など各種手数料ビジネスがあるし、かかるビジネスを子会社や関連会社を通じて、あるいはグループ外の証券会社やインターネット専業銀行等と提携して行うところもある。
また、金融庁は平成29事務年度金融行政方針において「地域金融機関が、最大限、地域企業の価値向上や地域経済の活性化に貢献できるよう、業務範囲に係る規制緩和を含め環境整備について検討する」とし、さらに平成30年3月30日、中小監督指針につき、銀行が「その他の付随業務」として、取引先に対する人材紹介業務を行えることを明記する、他業禁止の規制緩和を行った。
これを踏まえ、地方銀行でも人材紹介業務に本格的に参入するところが相次いでいる。従前より、ビジネスマッチングの枠組みによる取引先への人材紹介支援は行われてきたが、監督指針の改正により、銀行本体による紹介免許の取得や人材紹介会社との人材交流が可能となっている。
現状ではフィービジネスというより本業支援やコンサルティングとしての色彩が高いが、地方銀行が地元企業を人材確保の観点からも支援可能となり、事業性評価との親和性が高いし、地域創生の観点からの相乗効果が期待される。
② 顧客本位原則との関係
顧客本位原則の観点から、銀行窓販で取り扱われることが多かった投資信託(毎月分配型等)について販売が減少している。また、保険窓販については、近年、外貨建一時払保険の販売が増加し、地方銀行の収益源ともなっているが、高齢者などからの苦情も増えている。
生命保険協会においても、高齢の契約者からの苦情が発生しやすいとして、募集時に親族の同伴を依頼することや、リスクや利回りを分かりやすく表示することなどの対応策を公表しているところであり、手数料収入に関するビジネスモデルに関し、顧客本位原則への留意が重要である。
おわりに
メガバンクのように海外業務を主要な収益源とすることが期待しがたい地方銀行にとっては、フェイス・トゥ・フェイスの地域密着型金融の取組みを進展させ、コンサルティングやソリューション型の高付加価値のビジネスモデルを深化させるか、フィンテックやAIを導入し、顧客利便性の高いローコストのビジネスモデルを深化させるといった大きな方向性が想定される(これらは二律背反ではなく、両立ないし相互補完し得るものと解するし、フィンテックやデジタル化の潮流自体は不可逆的である)。
注意すべきなのは、AIやフィンテックは、単に目新しい金融サービスを導入するという形式が目的ではなく、融資の高度化・迅速化や顧客の利便性への寄与という観点からの経営判断が求められることである。
また、単にAIを活用するのであれば「地域金融機関」である必然性もないことから、金融排除の克服へと資し、また余剰となったリソースをAIで代替できないリレーションシップ・バンキングや本業支援、ひいてはビジネスモデルの変革に資することが期待される。
【連載】地方銀行のガバナンス態勢の課題と再構築に向けた取組み
【連載】地方銀行における持続可能なビジネスモデルの再構築に向けた取組み
- 寄稿
-
鈴木総合法律事務所鈴木 仁史 氏
弁護士